先月のブログで、2つのビブリオバトルに参戦すると書きましたが、実際は3つのバトルを経験していた。まさに戦記…。

ここ1カ月はなかなかハードでしたが、十二国記の新刊が出たりと本関連でも大きな動きがありましたね。そんなリアルでも天皇即位の儀があった火曜日の祝日、下記の内容で読書会を開催しました。

日時:2019年10月22日(火)14:00ー16:00

場所:瓦町フラッグ 8階 会議室

参加者:4名(男3・女1)

課題:ル=グゥイン「ゲド戦記・影との戦い」

今回も初参加の方をお迎えしての開催でした。

「指輪物語」「ナルニア国物語」と並び、世界三大ファンタジーに数えられる「ゲド戦記」のエピソード1。老成しては大賢人、竜王と魔法使いとしての二大名跡を継いだゲドの師匠との出会い、ローグ魔法学院で日々、そして卒業、一人前の魔法使いとしての若き日を描く。

香西イオンの世界三大サーカス、木下大サーカスなんかと同じで、日本くらいしか三大ファンタジーとは言ってないらしい。しかし、世界的に有名なのは事実。ハリーポッターへも、魔法の学校、透明マントで死(影)から逃れる、といった影響を与えています。

また、宮崎駿氏もゲド戦記の熱烈なファンであり、海洋世界であるアースシーの魔法使いたちが風を操って帆船でスイーッと海原を進んだり、ゴント島出身の魔法使いは肩にペットを乗せている、といった姿は「風の谷のナウシカ」そのもの。大いなる自然の化身としての竜(王蟲)。もっとも宮崎Jr.が監督した映画版「ゲド戦記」は強引に1-4作を繋げたような感じで原作者も……この辺はググると面白いですよ。

・原作は読んでないけど映画は知ってる、でも「怖い」という印象を持つ人もいるそうです。

・魔法使いは「真の名」を持ち、同業者に知られてしまうと、呪い殺されたり操られる。平安の昔から日本でも知られた思想であり、本当に心を許した友人にはそっと互いの名前を教えあう。

・禁じられた呪文によって呼び出された「影」はその名を知り、自分にとって変わろうと追ってくる。最初は喋らずに四つん這いだったものが二足歩行になり言葉も話す。やがては自分の力よりも強大となり呑み込まれる…。

・現代人だと「アカウントを乗っ取られる」と言えばその恐怖が伝わりやすいかな?

・ジブリアニメに思いを馳せれば、「千と千尋の神隠し」の銭婆に名前を奪われる。呑みこもうと迫る影(カオナシ)からの逃避→調和しての「沼の底」なる数駅先への旅(普遍的無意識≒阿頼耶識 へのダイブ?)

・ゲドの名付け親たるオジロンとの関係は禅問答のようでもあり、一方でドラゴンを退治したりと冒険もしている。

・青少年向けに書かれているが、「大人の童話」といった感じ。

・全体を通してどこか東洋人たる我々がストンと腑に落ちるような世界観で描かれ、それは人類学者の父、芸術家の母という環境で育ったのが大きいのでしょう。「影との戦い」はユングの影響が強いのですが、ユングもまた東洋の神秘に魅せられてましたね。最後のゲドとカラスノエンドウの2人旅、無事帰還を願う乙女…柳田民俗学の「妹の力」がしっくりくる。

・2作目以降はフェミニストとしての著者の思想が強く、男たる私は大筋のストーリーは楽しめても正直ううん? なのですが、読書メーターの女性の感想なんか見るに、おおむね好評で、女性だけど著者は紳士あるいは騎士的な心を持ってるんだろうなぁ。

・白い肌をもつ帝国人からすれば、得体の知れない呪いをする褐色や黒い肌の人間は非文明・蔑視の対象であるが、自然との調停者…これからもファンタジー作品のひとつのお手本として読み継がれてゆくであろう一冊。ハロウィンに跳梁跋扈するモンスターたちであるが、ほんとうに「おそろしいもの」は自分自身の中にいる。飼いならせば心強く、自らも成長できるのでしょうが、実際はなかなかうまくいかず、妬みや怨みを感じたり…にんげんだもの。

貴重な祝日にご参加いただいた皆さん、ありがとうございました! みよとこしえに!

 

 

 

 

 

 

 

存命なら昨日で90歳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★次回は11月17日(日)、年内最後の開催となります。

冬に読みたい一冊ということで、北海道を舞台にした佐々木丸美「雪の断章」を課題とします。

孤児として施設で育った少女。裕福な家庭に養女として迎えられるが、そこには意地の悪い3人の娘たちがいた。

家政婦扱いでの引き取り。雨の日も雪の日も繰り返される、いびり。そんな彼女に救いの手を差し向けてくれたのは、幼い頃によくしてくれた、経済力で養家を大きく上回る名家の跡取りたる青年。

青年を中心としたコミュニティで妹分として可愛がられるなか、クリスマス会の夜にある事件が。大きくなる青年への恋慕、妹以上に見られない、そもそも身分が違いすぎる——? 北の大地でおおきく燃え上がる感情の炎。三浦綾子、桜庭一樹といった北海道出身の女流作家と同じ文学DNAの系譜に連なる1冊です。

 


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レポート作成:はじめ