暖冬かと思えば、春かと思うほどの温度だったり、色々と天候が落ち着かない2月。

鬼はそと、福はうちーーかつて疱瘡(病魔)を祓わんとした宮中行事から民間に下りてきた豆まきが、リアルで新型ウイルス跋扈する世で原点回帰・・・。チョコ食ってる場合じゃねぇ、豆食って魔を滅せねば。あ、カカオも豆か。
。。

そんな二月半ば、下記の内容で課題読書会2ndMemoryを開催しました。

日時:2020年2月16日(日)11:30ー13:30

場所:Wabi-sabi ロッソビアンコ

参加者:3名(男2・女1)

課題:小野不由美「風の海 迷宮の岸」


今回も初参加の方をお迎えしての開催&はじめて利用させていただくお店で、パスタをいただきながらのランチミーティング形式での開催でした。

課題としたのは、昨年に引き続き十二国記シリーズの第2作目となる「風の海 迷宮の岸」ですが、エピソード0にあたる「魔性の子」とも繋がる戴国の物語。

人数は少なかったですが、3人寄れば文殊の知恵とばかりに、実際はランチタイムの終わる14時前まで話し込み、実質2時間半…!

昨年の10月12日に刊行された、長編としては完結作となる「白銀の墟 玄の月」も戴国のエピソードであり、2019年に発売されることがアナウンスされるやTwitterのトレンド入りしたり、いざ発売すれば新潮文庫の発行部数の記録を塗り替えたり、発売日がリアルで蝕(向こうの世界とこちらの世界がまじわる時に生じる大嵐)だったり、期待値高いのはなんせ18年ぶりの長編だし、戴の国の人たちも同じぐらいの歳月、王と麒麟の帰還を待っているなど、色んなことがリンクしたすごい物語です。これぞシンクロニシティ。

長編で描かれる国のドラマは、必ず王とそれを選ぶ麒麟の出会いは欠かせず、この風の海では、産まれてすぐに蓬莱(日本)に流され、人として育った泰麒が10年の時を経て十二国の世界に帰還。通常の麒麟は黄金の毛並みを持つのに対して、漆黒の毛並みーー十二国世界では、一番尊い色が「黒」とされ(我々の世界の皇族や高僧がまとう紫色のような感じ)、吉兆の徴である麒麟だけでもめでたいのに、黒い麒麟は他の個体よりも霊力が強く国に大きな幸福をもたらすと信じられています。(閏年のお遍路逆打ちみたいな?)

10年のブランクがあるため、泰麒は本来自然にできるはずのことができないーーそれがコンプレックスでもあり、荒廃した国を平定するために王を選ばなければならない重圧。民もまた王と麒麟を求め、我こそはという者たちが麒麟が住む、異郷の宮殿を目指してやってくる…。

私なんかは、おとなしい泰麒にシンクロして読んだりもして、王候補である驍宗みたいな自身溢れるタイプの人は苦手だなぁ。同じ将軍職なら、黒い頭に白い毛並みの天馬ーー羽の生えた大きな犬ーーの飛燕を駆る李斎を推すかなぁ。

驍宗の騎獣が、一国を一日で駆け抜ける騶虞ーー白い虎に似た獣、黒い個体も稀にいるーー計都だったりと、犬派か猫派かみたいなところもあるけんど。

獰猛さ、スピード、タフネス、機転、そして戦場で被弾するかどうかの最後の紙一重は騎獣の反射神経にかかっている部分だったりで、武将は乗っている妖獣に対して一家言持っているというのが最新作で語られますが、やはり私は天馬かなぁ。

ネットの感想なんかだと、女性は身の回りの世話をする女仙にシンクロしたりするみたいですが、人の体に獣のパーツ…麒麟の成る樹の根から産まれ、乳を与える女怪は暴走する母性という印象。若い外見ながら女仙は不死のため「ぞえ」「かえ」「たもろ」みたいな古めかしい言葉遣い・・・異なる部署とはいえ、同じ勤め先であろう、女怪をとりあげ名前を与えるのが老婆だったり、そもそも女怪は産まれたときから成体・・・摩訶不思議な女の園。。。

驍宗と李斎、どちらも王としての器を持っているだろうが、驍宗が我こそはと昇山してきたのに対して、李斎はけっこう周りの推しがあったのではないでしょうか。

ひとつの国に九つの州があり、その州から誰も行かないのもまた、州同士でメンツが立たない部分もあったりなかったり。最初から王狙いではなく、荒れたなかでも富裕層の類いはみんなで徒党くんで、一生で一度だけ許される昇山ーー麒麟の住まう宮殿に「観光」にきた人もいそう。

10年ぶりの一般開放、「祭り」と作中で描写されましたが、たぶん屋台とか出てるんだろうなぁ・・・。

個人的なハイライトは、身を守る使令(麒麟に従う妖魔)を持たない泰麒が出会ってしまった強大な妖魔との対決。他の国の麒麟の使令はごつかったりするのが多いーー幼い麒麟が遊び感覚で妖魔を使令にしてゆくなかで、敵わない大物に出会ってしまった時に弱い使令は盾となって逃げる時間を稼ぐ=命を捧げている…のが想像できてしまう。麒麟は仁の獣なので、涙は流して悲しんでくれるでしょうが、麒麟と妖魔の契約、意外と契約満了で報酬にたどり着ける使令も少ないのかもしれません。

この世界において、麒麟と使令、王と麒麟のかわす契約は絶対ということもあり、理不尽とかも言ってられない。私は王様やれ、言われても断るかなぁ。麒麟に「許す」と言わなければ契約成立しない・・・はず。

断ったらその場で神罰で雷降って来るとかだとアレだけんど。辞めたいときは天に言えば円満に辞めさせてくれるが、その後半月くらいで死ぬけど。・・・麒麟に見つけられてしまえば、それで人としては終わってしまう。

私は「できる能力があって、やりたい奴がやれよ」のスタンスかなぁ。でも麒麟本人が「この人なんだけど、この人絶対政治とか向いてないよなぁ」と思う人が選ばれてしまう、というのもこのシリーズの面白いところですけどね。元来が少女向けのレーベル発ですから、最初はむいてなくても、じょじょに成長してゆけばいいのです! と若い読者にエールをおくる。

ご参加いただいた皆さん、どうもありがとうございました!

十二国記に出てきそうな卓


パスタランチ。1320円(税込)フリードリンク付。うめぇ。

ダヴィンチ2019年11月号。福山雅治と石田ゆりこ表紙。猟師は山の神を王と書いてジュウニサマと呼ぶ。二の間に十を置くと王という字になる。十二国記の新シリーズのアニメがあれば、福山雅治・神曲「王ーTWELVE」。計都の鞍にまたがって手綱を握りながら「俺の・恋人は・この国だ!」ドゥルルン! と咆哮!

おまけ・・・十二国記は「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「魔性の子」を読んだという参加者の方が、最新刊の戴国エピソードを押さえるにはどれを読めばよいのかと問われたので、最短の昇山登攀ルート。



実はこの辺、難しい問題でもあり、社会人は本と向き合う時間がなかなか取れない、できるなら細切れではなくまとまった時間に一冊は一気に読みたい。だが既刊分全部追うのは色々制約が・・・。

十二国記のコアな読者の人は、妖魔や妖獣が跳梁跋扈する黄海にあるという底なし沼に新規読者を引きずり込もうとしているので、別に最短ルートで追いつこうという姿勢を非難したりはしないでしょう。

しかしながらエピソード0の「魔性の子」をいつ読むのを未読読者に勧めるかは、それぞれの人で解釈が別れそう。

エピソード0なんだから、刊行順に追いかけるべきーーいやいや外伝だし、時系列に沿って黄昏の岸まで読んでからーー書店によっては、スタッフのオススメする順番、なんてものを販促で展示したりしたところもあるみたい。

この辺、スターウォーズをエピソード順に見るのか、はたまた4ー6ののちに、1−3、7−9とするのか、みたいなところか。同じく長編ファンタジーである「ナルニア国物語」は、著者であるルイスさんが、刊行順ではなく、時系列順に読んでほしい旨を伝えており、光文社現代翻訳版ではそれを尊重しています。「風の海 迷宮の岸」にも、泰麒がナルニア国物語を読んでいたであろう描写があります。アスラン・・・ゴウラン・・・ライオン・・・グリフィン・・・???

個人的には先に「風の海 迷宮の岸」を読んでおけば、グリフィンやべぇ・・・どうしてこんな奴が・・・と「魔性の子」で絶望できます。

「月の影 影の海」は実は上巻のネガティブな部分がダメで投げる人もいるので、私としては「風の海 迷宮の岸」で可愛い泰麒に癒されて十二国記の世界に入るというのもアリだと思いますよ。作中で戴の国はひどい、とにかくひどいと後々他の国の人に言われまくりますが、「風の海 迷宮の岸」はジャジャジャーン、と銅鑼の鳴る中華風BGMで終わるようなハッピーエンドは保証されてますので。

★次回は3月15日、瓦町フラッグ8階会議室にて「二十四の瞳」を取り上げます。古本を含め様々な版元で出ておりますが、手に入ったものをお持ちください。

昭和初期。瀬戸内海に浮かぶ島、岬の分校に新任の女性教諭が6ヶ月ローンの自転車を漕いで赴任してきた! 

十二人の児童との交流と別れ、本校での再会・・・実は小説内ではどこの島かと名言されていませんが、普通に考えるなら壷井栄が暮らしていた「小豆島」と考えるのが妥当であり、モノクロ版の映画は「八日目の蝉」「Nのために」といった小豆島を舞台にした映像化作品の走りとも呼べるでしょう。

十二国から十二人の児童たちとおなごせんせいの物語へ。



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レポート作成:はじめ